内反小趾とは、足の小指が親指側に曲がり、小指の付け根(第5中足骨頭部)が外側に出っ張ってしまう状態のこと。仕立て屋(Tailor)があぐらを組んで作業することで小指の付け根にタコができることから、欧米では"Tailor's Bunion"とも呼ばれています。出っ張った部分が靴によって圧迫され、側面や裏側に腫れと炎症が生じ、次第に痛みを有するタコができることで歩行困難となることもあります。発生頻度は外反母趾ほど高くはありませんが、一般的には思春期や成人の女性によく見られます。小指の付け根部分の骨の外側への出っ張りや開きといった骨の構造的な特徴も関与していますが、同時に横アーチがつぶれ足の幅の広がった開張足をしているのが特徴です。こういった特徴的な形をした足に、きつい靴による圧迫が加わることで症状を悪化させてしまいます。特に先端が細くなったハイヒールのような靴を日常的に履いていると、体重の負荷が前足部に集中するため、横アーチがつぶれ足の横幅がさらに広がってしまいます。一方でハイヒールの先端は細くなっているため、小指が靴によって圧迫され、付け根の関節がくの字に曲がってしまうのです。女性は、小指の関節や足の横アーチを形成している靭帯が弱いため、より内反小趾となりやすいので注意が必要です。治療は、靴による圧迫などの物理的刺激を減らす努力をすること。足の横アーチを下から押し上げながら支えることで、横幅を狭めてくれる効果のあるパッドの付いたインソールが入れてある靴を選ぶようにしましょう。また、ポイントストレッチャーによる履物の修正や患部に保護パッドを当てること、さらに肥厚した角質を取り除くことも有効です。患部が赤く腫れ、ぶよぶよとしたもの(滑液包炎)が存在する場合は注射による治療が有効なこともあります。ただし、これらの保存療法が無効な場合は手術療法が適応となります。痛みが激しく歩行に影響が出る場合には、整形外科専門医の診察をお勧めします。
内反小趾
■足が圧迫されやすい靴を避ける
外反母趾同様、内反小趾の予防には、靴による物理的な刺激が足指に加わらないように工夫することが大切です。できるだけ足への負担の少ない"足にやさしい靴"を選ぶようにしましょう。特に先端が細く、足指を圧迫しやすい形状の靴は避けた方が賢明です。また、内反小趾は横幅の広い足の人に多いので、足囲(ウィズ)がフィットした靴を選ぶことも重要です。ヒールはなるべく低いものがお薦めですが、どうしてもヒールが高いものを選ぶ際は、足の左右へのバランスが取りやすいヒールの太いものにしましょう。
■アーチサポートで横アーチを保持
自分の足に合わせ、足の横アーチを支えるパッドのあるオリジナルのインソール(アーチサポート)を作成し、靴の中に入れることも有効です。アーチサポートを靴に装着することで足の横幅の広がりが抑えられるので、靴による圧迫を解消させることができます。ただし、パッドの位置や高さは人によって異なるので、作成の際は必ず整形外科医やシューフィッターなど、足や靴の専門家のアドバイスを受けることをお薦めします。
■ポイントストレッチャーなどで靴を部分的に広げる
市販の靴でも革靴であれば、ポイントストレッチャーと呼ばれる器具を用いて、靴の中であたって痛い所を部分的に伸ばすことができます。革をやわらかくして伸びやすくする、革伸ばし用スプレーをあたる部分に吹きかけたのち、ポイントストレッチャーではさんで伸ばすことで症状を改善させることができます。ただし、あまり自己流に偏らず、最初はシューフィッターや足や靴の専門家のアドバイスをしっかりと受けてから行うようにしましょう。
吉野匠(よしの・たくみ)
医学博士、日本整形外科学会認定専門医、吉野整形外科院長。順天堂大学医学部卒業後、慶應義塾大学医学部整形外科学教室に入局。その後、慶応義塾大学病院、佐野厚生総合病院、済生会横浜市南部病院などを経て、2003年に吉野整形外科開院。日本整形外科学会認定整形外科専門医、スポーツ医、リハビリテーション医、日本リウマチ学会認定リウマチ専門医など、数多くの資格を持つ。特に足の外科を専門として、外反母趾をはじめ多くの足部疾患の手術療法にも力を注いでいる。