素足のトラブル辞典

外反母趾

外反母趾とは、足の親指が小指側にくの字に曲がってしまっている状態のこと。今日では日本人女性の3人に1人が外反母趾といわれるくらい、一般的にみられる足のトラブルの1つです。症状が進むと、歩くだけで痛むようになり、いずれ足首やひざの痛み、腰痛、肩こり、頭痛などを併発することもあります。さらに症状が悪化すると慢性の痛みによるストレスから精神障害や自律神経へ影響が及ぶこともあり、注意が必要です。その発生には、もともと外反母趾になりやすい骨格をしていることや、足を支える靭帯の脆弱化、体重増加による影響などさまざまな要因がありますが、明らかな原因の1つとして知られているものに、ハイヒールなどの足先に大きな負担がかかる靴を日常的に履くことによる、足への影響が挙げられます。女性は男性よりも関節が柔らかく、筋力が弱いことから、足の横アーチを形成している靭帯が緩みやすいため、足部の変形が生じやすいと考えられます。とくにハイヒールは体重の負荷が前足部に集中するため、足の横アーチがつぶれ横幅が広がる一方で、ハイヒールの先は逆に細くなっているために、足の親指が圧迫されやすく外反母趾となってしまうのです。また、現代社会では1日のうちで靴を履く時間が長くなり、さらに乗り物を利用することで自分の足で歩く機会は減少してきています。そのため足裏の筋力が低下し、アーチのつぶれた扁平足や横幅の広い開張足の人が増える傾向にあり、それに伴う足のトラブルも増加しています。靴の裏を見た時に、左右非対称な減り方やかかとの内側や靴の中央部分が削れるような場合は、既に外反母趾や扁平足、開帳足などのアーチのつぶれを伴う足部疾患の可能性があるので注意が必要です。また、脊椎の変形、膝や股関節の異常や外傷に伴う脚長差などが認められることもありますので、整形外科専門医の診察をお勧めします。

予防法

■足にやさしい靴を選ぶ
靴を選ぶ

外反母趾を防ぐには、できるだけ足への負担の少ない"足にやさしい靴"を選ぶことが大切です。ヒールはなるべく低く、足が前に滑りにくい中底のものを選びましょう。どうしてもヒールが高いものを選ぶ際は、足首への負担の少ない、ヒールが太く安定性があるものにしてください。さらに足囲(ワイズ)がフィットしているかどうかの確認も重要で、きつ過ぎてもゆる過ぎてもいけません。ストラップなどで足首を支えられる靴も安定性が増し、よりやさしい靴といえるでしょう。1日のうちで、もっとも足がむくみやすい夕方に履いて選んだ方が、より自分に合ったサイズを見つけることができます。

■足裏の筋肉を鍛える
足エクササイズ

足裏の筋力が弱り、足が体重を支えられなくなると、足のアーチが崩れ、結果として外反母趾へと進行する可能性があります。足の指でタオルを引き寄せる運動、ゴムひもを用いた運動などを行い、日常的に足裏の筋肉を鍛える努力をしましょう。また、裸足で歩いたり、下駄やサンダルなどの鼻緒のついた履物を履くのも足裏の筋力を鍛える1つの方法として有効です。さらに足指のストレッチを行い、曲がった親指の関節の拘縮を予防することも大切です。

■ヒールの高さをON/OFFで変える
靴ローテーション

ヒールのある靴が足にとって良い影響を与えないことは、もはや周知の事実ですが、かといってヒールのある靴を完全に避けるのは難しいもの。とくに関節や骨が弱くやわらかい女性は、足にも休息(休足(・))タイムを与える必要があります。通勤時はスニーカーなどヒールの低い靴を使用する、あるいは休日にはヒール靴は履かない、などのメリハリをつけるだけでも、足のトラブルに対する十分な予防効果が期待できます。

■正しい歩き方を身に着ける
歩き方

靴だけでなく、正しい歩き方も大切です。正しい歩き方とは、かかとの外側から地面に接地し、足の外側から前方に向かって重心を移動させ、最後に親指で地面を蹴り返すイメージで歩くこと。その際、肩の力を抜き上半身をまっすぐにして歩くようにしましょう。また、自分が正しい歩き方をしているか、ふだん履き慣れた靴の裏を見てチェックすることも大切。正しい歩き方をすると、靴の裏は、左右対称にかかとの外側と親指のあたりが減っていきますので、時々確認してみましょう。

■ストレッチャーなどで靴を伸ばす
ストレッチャー

既にある靴も微調整をすることで、足への負担を減らすことができます。靴屋で伸ばしてもらうほか、シューストレッチャーや皮の軟化スプレーなどを購入して、自宅で伸ばすのも有効です。ただし、加減がわかるまでは、シューフィッターのアドバイスなどに基づき、あまり自己流に偏らないようにしましょう。

監修

吉野匠(よしの・たくみ)

吉野匠(よしの・たくみ)

医学博士、日本整形外科学会認定専門医、吉野整形外科院長。順天堂大学医学部卒業後、慶應義塾大学医学部整形外科学教室に入局。その後、慶応義塾大学病院、佐野厚生総合病院、済生会横浜市南部病院などを経て、2003年に吉野整形外科開院。日本整形外科学会認定整形外科専門医、スポーツ医、リハビリテーション医、日本リウマチ学会認定リウマチ専門医など、数多くの資格を持つ。特に足の外科を専門として、外反母趾をはじめ多くの足部疾患の手術療法にも力を注いでいる。

吉野整形外科

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